海外直接投資企業をベトナムに設立した後、履行すべき投資法・企業法上の主な義務
2024/01/30
- Le Que Ngan
はじめに
海外直接投資企業(以下「FDI企業」という)の設立は、ベトナムに投資しビジネスを展開する際に多くの外国投資家が選択する形態の一つであり、主に有限責任会社または株式会社として設立される。本稿では、投資家・企業がベトナムの企業法を理解し遵守できるように、FDI企業が設立後に履行すべき重要な義務について説明する。
1. 定款資本の出資義務
「定款資本」とは、有限責任会社については「設立時に各社員、会社所有者が出資した又は出資を誓約した財産の総額」、株式会社については「設立時に販売した又は購入の登録がされた株式の額面額の総額」をいう[1]。出資期限および出資方法は以下のとおりである。
a) 出資期限について
| 会社の形態 | 出資期限 | 期限内に全額出資しない場合 | |
| 有限責任会社 | 一人社員 | 企業登記証明書が発給された日から 90 日以内[2]。 | 会社の所有者は、定款資本を全額出資すべき最終日から30日以内に、実際に出資した資本金の価額に定款資本を変更を登記しなければならない。 |
| 二人以上社員 (*)
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・誓約した出資を一切実施しない社員は、当然に会社の社員の地位を失う。 ・誓約したとおり完全に出資しない社員は、出資済みの持分に応じた各権利を有する。 ・出資されていない各社員の持分は、社員総会の決議、決定に基づき売却申出される。 |
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| 株式会社 | 企業登記証明書を発行された日から 90 日以内に購入登録済み株式につき全額の払込みをしなければならない。しかし、会社の 定款又は株式購入登録契約がそれと異なるより短い期限を定める場合を除く[3]。 | ・購入登録済み株式につき払込みをしていない株主は、当然に会社の株主でなくなり、他人に対して株式購入権を譲渡できない。 ・購入登録済み株式の一部についてのみ払込みをした株主は、払込んだ額に応じた株式数に基づく議決権、利益配当請求権その他の各権利を有するが、他人に対し払込みしていない株式購入権を譲渡できない。 ・払込みされていない株式は未発行の株式とみなされ取締役会が発行権を得る。 ・会社は、払込期限に従って購入登録済み株式の払込期限日から30 日以内に、全額払込みされた株式の額面の価額に基づき定款資本の調整登記と、発起株主の変更登記をしなければならない。ただし、払込期限日から30日の間に、払込されていない株式について別途(別の投資家に対し)発行がされ、当該投資家が払込みをした場合は、定款資本の調整登記は不要となる。 |
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(*) 二人以上社有限責任会社の場合、出資者が持分を全額出資したときは、会社は社員に対し、出資した持分の価額に対応する持分証明書を発給しなければならない。持分証明書の内容は企業法の第47条第6項に定められている。この義務の存在について知らず、または知っていても重要でないと考え持分証明書を発行していない場合も多い。しかし、持分証明書の発給番号と発給日付は、社員総会を開催する際に、社員総会の議事録の必須事項の一つである。また投資局から持分証明書の写しの提出を求められることもあり、提出できない場合は登記手続きに支障をきたすのみならず、行政違反として罰金を科されるリスクもある。対象となる会社は適時に持分証明書を発行する必要がある。
b) 出資財産及び出資方法について
出資財産は、ベトナムドン、自由に交換することができる外国通貨、金、 ベトナムドンにより評価することができる土地使用権、知的財産権、工業技 術、技術ノウハウ及びその他の各財産である[4]。
多くの場合ベトナムドンまたは自由に交換することができる外国通貨での出資が最も一般的であり、FDI企業の設立後、その社員/所有者/株主は「直接投資資本口座」(以下「DICA」という)宛に送金を行い定款資本を出資する。DICAとは、FDI企業がベトナムへ外国直接投資を行うに際し、出資や資本取引のための送金を行うことを目的として認可されたベトナムの銀行に開設する外貨建てまたはベトナムドン建ての口座である。
2. 社員登録簿又は株主登録簿の作成・保管の義務
企業登記証明書の発給を受けた後、直ちに会社の社員の持分所有情報を記載した社員登録簿(二人以上社有限責任会社である場合)または会社の株主の株式保有に関する情報を記載した株主登録簿(株式会社である場合)を作成し なければならない。
また、社員登録簿及び株主登録簿は、書面または電子データファイルで作成され、会社の本社に保管されなければならない。
3. 条件付投資業種・業態の全ての事業条件を満たす義務
FDI企業が、2020年の投資法の経営投資分野リスト付録IVに記載された条件付き経営分野の事業登録を行い活動を行う場合、活動開始前にすべての経営投資条件を満たすとともに、経営活動の過程においてそれらの条件が全て満たされた状態を維持しなければならない。
例:FDI企業が「商品小売」業の登録を行い活動を実施するためには、政令09/2018/ND-CP[5]に従って、商品販売活動および商品販売に直接関連する活動のビジネスライセンスを申請しなければならない。そして活動開始前に小売りを行う商品の分類等に応じて規定された投資および経営条件を全て満たしている必要がある。
条件付き投資分野については分野ごとに異なる条件が定められているため、FDI企業は正式に経営活動を実施する前に該当する法令を確認し、すべての経営条件を完全に満たしていることを確認する必要がある。
4. その他の実施事項
さらに各企業は次のような項目も履行する必要がある
・本社に会社名を記載した看板を掲示する[6]。
・会社の印鑑を調製する[7]。
・登記した事業分野に従って活動する。
・本店住所、法的代表者の情報、外国人投資家である所有者・社員または株主に関する情報に変更があった場合には、企業登録内容変更登録の義務を完全かつすみやかに履行する。
おわりに
本稿では、FDI企業が設立後に履行すべき企業法および事業ライセンスにかかる投資法・企業法上の義務やその他の実施すべき事項について説明した。違反による罰金のリスクを回避し、企業の効果的な事業運営を確保するため、企業はこれらの義務を厳守し適時に実施する必要がある。 なお、ベトナムで設立されたFDI企業は納税義務、財務義務、投資活動報告書の提出などの義務も有するため、関連するベトナム法令を良く理解し求められる事項を適時に履行する必要がある。
[1] 企業法第4条第34項
[2] 企業法第47条第2項及び第75条第2項
[3] 企業法第113条第1項
[4] 企業法第34条第1項
[5] 外資系企業の商品売買活動などに関する商法および外国貿易管理法の細則を定める政令
[6] 企業法第40条第3項
[7] 2020年企業法では義務として規定されていないが、過去の企業法では印鑑の作成と管轄当局への通知が義務づけられていた。現在も実務上会社の公的書面等には会社印の押印が求められており、印鑑は企業経営において不可欠なものとなっている。


