企業の人事管理におけるDXの課題および留意点
2026/03/09
- Tran Ha My
はじめに
第四次産業革命の進展により、人事管理におけるDXは、ベトナム企業のコーポレートガバナンスにおいて不可欠な要素となっている。効率化やコスト削減といったメリットがある一方で、多数の法的課題も生じており、特に労働管理・個人情報保護・情報セキュリティに関する規制が次々と整備されている。本稿では、企業が留意すべき主要な規制を分析し、人事管理におけるDX導入に伴う課題を明確にする。
1. DXの課題
1.1 労働の登録および労働情報の修正義務
2026年1月1日より2025年雇用法が正式に施行され、使用者に対し、国家データベースシステム上の労働情報の登録、更新および修正義務に関する規定が追加された。今後、労働者および使用者の情報は、国家機関の電子情報プラットフォーム上で管理される。労働者は、自身の情報を使用者の要請に応じて提供し、また、使用者も管理の対象となる労働者に関する情報を当該データベースから活用する権限を有する。
2026年7月1日からは、企業は強制社会保険の加入対象となる労働者の労働情報について、登録・修正義務を履行することが必須となる。実務上は、人事情報の収集・管理・更新、ならびに関連法令の遵守に関し、少なからぬ課題が生じることが想定される。
1.2 電子労働契約
電子労働契約(以下「eContract」)とは、電子形式で締結される労働契約であり、書面による労働契約と同等の法的効力がある。これは、企業に義務付けられるものではないが、書面による労働契約に代えて、企業や行政の人事管理プロセスの効率化を目的に活用が推奨されている。
eContractの法的効力は、2019年労働法および2023年電子取引法により既に認められている。もっとも、実務への適合性を高めるため、政府は2026年1月1日より施行される政令337/2025/ND-CPを公布し、eContractの締結・履行・管理に関する法的枠組みを補完した。主な内容は以下のとおりである。
(1) 使用者および労働者に加え、eContractサービス提供事業者は、契約内容自体には関与しないものの、電子情報の作成、保管および認証を行う。
(2) 各eContract、または書面の契約からeContractに転換された労働契約には、個別の識別番号が付与される。これらは、国家管理の電子労働契約プラットフォームに登録され、労働に関する国家管理業務を円滑化するとともに、関連する情報システムの連携に資する。
(3) eContractの効力発生時点は、当事者間で別途合意がある場合を除き、最終署名者による電子署名の時点とされる。また、各当事者の電子署名に付随するタイムスタンプの付与および提供者による電子情報の認証をもって確定することが明確に規定されている。この規定は、当事者の権利・義務の確定および労働関係上の問題発生時の処理において、特に重要な意義を持つ。
1.3. 労働者の個人情報保護責任
上記1.1 および1.2の導入により、労働者の個人情報の収集、更新、保管および利用が電子環境下で大幅に増加する。データが複数のデジタルシステムを通じて集中的に管理されることにより、労働者の個人情報の漏えい、不正アクセスまたは不適切な利用のリスクも高まる。 そのため、人事管理におけるDXでは、個人情報保護に関する規定の厳格な遵守が求められる。2026年1月1日より施行される個人情報保護法に基づき、企業は、個人情報の収集・処理を適法な範囲および目的に従って行うとともに、侵害リスクを防止するための適切な管理措置を講じる義務を負う。さらに、企業は個人情報へのアクセス権限、保管、保護および処理に関する明確な社内プロセスを整備するとともに、労働者に対して個人情報保護に関する権利・義務の意識向上を図る必要がある。これらは、企業の法令遵守に留まらず、労働者の合法的権利を保護し、企業の信頼性および評判を高めることにも寄与する。
2. 企業が直面する主な課題および留意点
労働登録やeContractなどにより企業も行政にもメリットが発生する一方で、企業は以下のような課題に直面する可能性がある。
(1) 人事情報管理のデジタル化に伴う負担
実務上、現在も人事情報を紙で管理しているか複数のシステムに分散して管理している企業は少なくない。こうした企業にとって、人事管理をデジタルシステムへ移行し、新規定に沿って情報を適切に更新していくことは容易ではなく、時間・財務・人的資源の確保が必要となる。
(2) 個人情報保護に関するリスクの増加
全ての情報を一つのデータベースで管理することにより、労働者の個人情報保護に関する責任は一層増大する。企業が十分かつ効果的な個人情報保護のシステムおよびプロセスを整備していない場合、情報漏えい・不適切な取扱いおよびそれに伴い法的リスクが発生し、企業の信用に悪影響を及ぼすおそれがある。
(3) 法令遵守への対応の難しさ
労働者に関する情報は、行政機関が管理する電子システム上で登録・更新・連携されるため、内容の透明性が高く、常に監査・検査できる。その結果、情報の誤り・不整合は把握・処理されやすくなるため、企業は労働、社会保険、個人情報保護に関する法令を完全かつ一貫して遵守することが求められる。
以上のような課題に対応するため、企業は人事管理システムの導入に必要な財務・人的資源を確保するとともに、個人情報の管理・保護に関する社内プロセスを整備することが重要である。また、法的リスクの回避のため、労働法、社会保険法および個人情報保護法を厳密に遵守しなければならない。
おわりに
人事管理におけるDXは、企業の管理効率向上および法令遵守を実現する上で今後ますます不可欠な要素になってくる。一方で、労働者情報の透明性、管理コスト、データの一元化および個人情報保護といった課題も伴う。そのため、企業が効果的かつ持続可能なDXを推進するためには、必要な財務・人的資源を確保し、適切なシステムの構築および管理プロセスを整備する必要がある。
参考文献
・政令13/2023/ND-CP号
・政令318/2025/ND-CP号
・政令337/2025/ND-CP号
・2025年個人情報保護法
・2025年雇用法


