ベトナムにおける飲食業の法人設立に関する 手続きと留意点
2026/03/04
- Nguyen Minh Tuan
エグゼクティブサマリー
① 飲食業の場合、最初から店舗を持つ方法と、まず事務所を持つ方法と2パターンある。本店=店舗(ケースA)はシンプル、本店≠店舗(ケースB)は多店舗・多業種展開に適した構造。
② 全IRCの資本金合計は、常にERCの法定資本金以下に収める必要がある。複数IRC保有の場合も合算で上限が適用される。
③ 2店舗目設立時に将来店舗分もまとめてERC増資申請することで増資は1回に集約できる。他省・市への出店は省・市ごとに別途IRC取得が必要。
経済環境の厳しさが続く中、飲食分野は依然として外国投資家(以下、「投資家」)にとって魅力的な投資環境となっている。実際、2025年においては、サイゼリヤやとんかつ和幸をはじめとする多くの大手外食チェーンがベトナムにおける初店舗をオープンしている。一方で、同分野への参入や事業運営は決して容易ではなく、投資家は市場参入規制や事業条件に関する複数の障壁に直面している。本稿では外国投資によるレストラン(以下、「FDIレストラン」)を設立する際に理解すべき投資・企業関連手続きの基本的な手続きの流れと、その留意点について解説する。
1 FDIレストランの設立手続きと主なパターン
(i) 初店舗の設立
ケースA 本店所在地=初店舗の場合
初店舗として使用する営業場所を既に確保しており、その場所をFDI企業の本店所在地としても利用する場合。まずレストラン投資プロジェクトに対するIRCを取得し、その後FDI企業の設立のためにERCを取得する。
| Step 1 | IRC取得(投資登録証明書) レストラン投資プロジェクトとして申請。本店所在地=店舗所在地 |
| Step 2 | ERC取得(企業登録証明書) FDI企業設立。登録資本金はIRC資本金合計以上が必要 |
| Step 3 | 各種営業ライセンス取得 飲食業営業許可・防火認証・食品衛生許可等 |
| ▶ 重要ポイントA:IRC の資本金の合計は ERC 資本金以下でなければならない |
| IRC に登録された出資額の合計(全 IRC 合算)は、ERC(企業登録証明書)に記載された法定資本金を超えることができない。 |
| 設立時および増資時のいずれの場面においても、必ずこの制約を確認する必要がある。 |
ケースB 本店所在地と初店舗が別の場所の場合(コンサル業兼営等)
企業の本店所在地を初店舗とは別の場所に置く場合。コンサルティング業と飲食業を兼ねる場合、または多業種・多店舗展開を想定する投資家に適用される。ケースAより手続きは複雑だが、管理・運営上の利便性が高い。
| Step 1 | IRC取得(コンサル等、本業) 本店所在地で別業種として登録 |
| Step 2 | ERC取得(企業登録証明書) FDI企業設立。複数IRC保有の前提で資本金を設定 |
| Step 3 | IRC取得(飲食業) レストランの営業場所が確定した後に取得 |
| Step 4 | 各種営業ライセンス取得 店舗ごとに飲食業営業許可・防火認証等を取得 |
【図】IRCとERCの資本金の関係(コンサル+飲食業を兼ねる場合)
| ERC(企業登録証明書) | IRC(投資登録証明書) | |
| 法定資本金:X 万 USD 全 IRC の資本金合計 ≤ ERC 資本金 (会社全体の資本金上限を規定) |
≥ | IRC①(コンサル):A 万 USD IRC②(飲食):B 万 USD ①+② ≤ ERC 資本金 |
| ▶ 重要ポイントB:コンサル業兼営の場合は複数の IRC を保有する |
| コンサル業と飲食業を兼ねる FDI 企業は、複数の IRC を保有することになる。 |
| ・コンサル業に対応する IRC(本店所在地で登録) |
| ・飲食業(レストラン)に対応する IRC(各店舗所在地で登録) |
| 両 IRC の資本金合計が ERC 上の資本金を超えないよう、設立・増資の各段階で必ず確認すること。 |
【表】ケースAとケースBの比較
| 比較項目 | ケースA(本店=店舗) | ケースB(本店≠店舗) |
| 手続きの複雑さ | 比較的シンプル | 複雑・期間も長い傾向 |
| コスト | 低め | 高め(外注費含む) |
| IRC の数 | 1つ(飲食のみ) | 2つ以上 |
| 多業種経営 | 不向き | 適している |
| 多店舗チェーン展開 | やや不便 ※数十店舗規模になると本店(1号店)の事務所スペース不足等の問題が発生するため | 管理・運営しやすい |
| 向いているケース | 小規模・単一業種 | 多店舗・多業種展開 |
(ii) 第2店舗以降のレストラン設立
第2店舗以降は以下の2ステップで手続きを進める。ERC上の増資は2店舗目の設立時に2〜5店舗目分をまとめて行うことで、増資手続きを1回に集約することが可能。なお、IRCへの住所追加は店舗開設のたびに都度対応する。
| Step 1 | ERC修正(増資) 2店舗目設立時に2〜5店舗目分の増資をまとめてERC申請 → 増資手続きは1回のみ |
| Step 2 | IRC修正または新規取得 同一省・市内 → 既存IRCに住所を追加修正(推奨)または店舗ごとに個別IRC取得(非推奨) / 他の省・市 → 省・市ごとに別途IRC取得が必要 |
【表】多店舗展開におけるIRC・増資手続きの整理(2〜5店舗目を追加する例)
| 追加店舗 | IRC 手続き | ERC 増資手続き |
| 2 店舗目 | 既存 IRC に住所追加(推奨) または個別 IRC 取得(非推奨) |
2〜5 店舗目分を まとめて増資(1 回のみ) |
| 3 店舗目 | 既存 IRC に住所追加(同一省市) 他省市の場合は新規 IRC |
増資不要 |
| 4 店舗目 | 既存 IRC に住所追加(同一省市) 他省市の場合は新規 IRC |
増資不要 |
| 5 店舗目 | 既存 IRC に住所追加(同一省市) 他省市の場合は新規 IRC |
増資不要 |
| 合計 | IRC 修正:4 回(店舗ごと) | ERC 増資:1 回のみ ✓ |
| ▶ 重要ポイントC:2店舗目設立時に複数店舗分をまとめてERC増資 → 増資は1回のみ |
| 2店舗目の設立時に、将来開設予定の2〜5店舗目分の必要増資額をまとめてERC上で申請することが可能。 |
| これにより、実際の増資手続きは1回のみに集約できる。IRCへの住所追加は店舗開設のたびに都度行う。 |
| 例:2店舗目設立時にERC修正(2〜5店舗目分を一括増資)→ 3〜5店舗目はIRC住所追加のみで対応。 |
2 留意点
(i) 店舗の営業場所について
レストラン営業許可を取得するためには、投資プロジェクトが都市計画(マスタープラン・地域計画)に適合していることが求められる。ショッピングセンターへの出店は都市計画情報が明確なため許可取得が比較的円滑に進む。ショッピングセンター以外では、土地利用目的・地域計画等を賃貸契約締結前に慎重に確認する必要がある。
(ii) 店舗の営業場所に関する法的書類について
賃借する面積がレストラン営業に適した区域に含まれていることを確認する必要がある。防火・防災要件は厳格に審査されるため、関連資料を十分に準備しなければならない。書類が不十分な場合、申請却下・修正要求・追加費用が発生するリスクがある。
(iii) 各店舗のIRCについて
現行法上、レストラン事業を個別の投資プロジェクトとして扱うか否かの明確な規定はないが、ハノイ・ホーチミン市の実務では各レストランを1つの投資プロジェクトとして扱う傾向がある。同一省・市内の複数店舗については、共通のIRCにまとめる方法と、店舗ごとに個別のIRCを取得する方法のいずれかを選択できる。
| 方法 | 概要 | メリット | 推奨度 |
| 共通 IRC(推奨) | 同一省・市内の複数店舗を1つの IRC にまとめる(住所追加方式) | 審査期間の短縮、投資プロジェクト管理の効率化、報告義務の軽減 | ◎ |
| 個別 IRC(非推奨) | 2店舗目以降も店舗ごとに新規 IRC を取得する | 店舗単位での管理は明確だが、管理コスト・報告義務が増加 | △ |
| ▶ ⚠️ 他の省・市への展開時は必ず別途IRCが必要 |
| 同一省・市内であれば共通IRCへの住所追加で対応できるが、他の省・市に出店する場合はその省・市ごとに新たなIRCを取得する必要がある。 |
| 例:ホーチミン市内の複数店舗 → 共通IRC1本で対応可 / ハノイに追加出店 → 別途ハノイ管轄のIRC取得が必要 |
(iv) レストラン事業の営業条件の適合について
投資・企業関連手続きの完了後、営業開始前に各種営業条件を満たすための手続きが必要となる。飲食業営業許可証・防火防災証明書・食品衛生許可証などが主要なものとして挙げられる。業種・所在地の特性に応じて必要な許可が異なるため個別に確認することが重要。
おわりに
FDIによるレストランの設立および事業拡大にあたっては、法令に沿った十分な準備が不可欠である。特に以下の3点は実務上の重要な留意事項として認識しておくことが求められる。
| # | 重要ポイント | 内容 |
| A | IRC資本金の上限 | 全IRCの資本金合計 ≦ ERC資本金。設立・増資のたびに必ず確認 |
| B | 複数IRCの管理 | コンサル+飲食など多業種の場合、複数のIRCを保有することになる |
| C | 増資のタイミングと効率化 | 2店舗目設立時に2〜N店舗目分をまとめてERC増資申請することで、増資手続きを1回に集約できる |
これらを踏まえ、投資家には初期段階から統合的な法務計画を策定し、リスクを最小限に抑えながら、円滑な事業運営とレストランチェーンの持続的な展開を目指すことが望まれる。
参考文献
・2020年投資法
・2020年企業法
【問い合わせ先】I-GLOCAL CO., LTD.
担当:鹿島 妃里子 kiriko.kashima@i-glocal.com
ホーチミンオフィス +84-28-3827-8096 ハノイオフィス +84-24-2220-0334
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