Reportレポート

外国直接投資を受けている企業の財務諸表監査義務について

2024/05/18

  • US CPA
  • Masaya Sakai

はじめに
 FDI企業はベトナムにおいて新たに会社を設立または既存の会社を買収することで投資や事業展開を行うことがある。しかし、FDI企業の中には、ベトナムにおける財務諸表監査に関する規定を十分に理解していない企業もあり、財務諸表の提出や公表が遅れるまたは失念するケースが度々発生している。なお自社が監査対象となるにも関わらず監査を受けなかった場合、VND10,000,000から VND20,000,000の罰金が科されることになる。本レポートでは、FDI 企業がベトナムに会社を有する場合の財務諸表の監査義務について、基本的な考え方を説明する。

1. FDI 企業が子会社を有する場合、当該 FDI 企業は連結財務諸表を作成する必要があるか
 通達 202/2014/TT-BTC 第 5 条では、以下のように規定されている。
– 会計年度末に、親会社はグループ全体の連結財務諸表を作成する責任がある。
– 親会社が以下の条件をすべて満たす場合に限り、連結財務諸表を作成する必要はない。
a) 公益団体ではない。
b) 国有企業または国が支配的株主ではない。
c) 他社の子会社であり、連結財務諸表を作成しないことについて全株主(議決権を持たない株主も含む)の同意を得ている。
d) 資本または債務が市場で取引されていない。
e) 親会社の親会社がベトナムの会計基準に準拠し、公開情報を開示するために連結財務諸表を作成している。
したがって、FDI 企業か否かに関係なく、子会社を所有する場合かつ上記 a)~e)の条件のいずれかを満たさない場合、連結財務諸表を作成する必要がある。

2. FDI 企業は、個別財務諸表と連結財務諸表の両方の監査を受ける必要があるか
 2011 年の独立監査法第 37 条では、以下の対象企業については支店も含め、監査法人による個別財務諸表監査を受ける義務があることが規定されている。
a) 被外国投資企業
b) 信用機関法に基づいて設立および運営される信用機関
c) 金融機関、保険業者、保険ブローカー企業2
d) 公開会社、証券発行機関、証券取引機関
また政令 17/2012/NĐ-CP 第 15 条の第 4 項では、以下の通り、独立監査法の一部条項の詳細規定や適用指針が規定されている。
「当該条項の第 1 項および第 2 項に規定されている、個別財務諸表の監査義務がある企業や組織が、法律の規定により連結財務諸表も作成する必要がある場合、その連結財務諸表も監査を受ける必要がある。」
よって上記 2 つの規定から、FDI企業が会社を有する場合、通常以下の財務諸表について監査が必要になると考えられる。
– FDI企業の個別財務諸表
– FDI企業の連結財務諸表(作成義務については第 1 項で前述)

3. FDI 企業の子会社も監査を受ける必要があるか
 FDI 企業の子会社が、第2章で記載した 4 つのタイプのうちいずれかに該当する場合、当該子会社も個別財務諸表の監査を受ける必要がある。そのため、しばしば会社が a)の被外国投資企業に該当するかが問題となる。
 2020 年投資法では、外国投資家が株主である組織は、外国投資企業とみなされることが規定されている。この点 FDI 企業は海外からの投資を受けているものの、実態としてはあくまでベトナム企業と実務上は考えられており、親会社である FDI 企業は外国投資企業には該当しない。そのため会社が以下の 2 つの状況に該当する場合、当該子会社は被外国投資企業には該当しないことになり、個別財務諸表監査を受ける必要はないと解釈されている。
(i) FDI 企業が 100%出資している場合
(ii) FDI 企業および他の国内企業が出資している場合
 なお、FDI 企業に一部の株式を所有されていたとしても、外国企業によって他の株式を所有されている場合は、当該子会社は個別財務諸表の監査を受ける必要があり、留意が必要である。

おわりに
 以上、FDI 企業がベトナムに子会社を有する場合の財務諸表の監査義務について説明した。本レポートがベトナムの財務諸表監査に関する規定の理解に役立ち、また監査義務の有無を確認する際の参考になれば幸いである。

以上

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