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パートタイム労働の雇用に関する法令および留意点

2025/09/24

  • Luong Diem My

はじめに

ベトナムでは近年、雇用形態がより柔軟化しており、サービス業、小売業、教育の分野においてはパートタイム労働者の活用が一般化している。企業は人手不足や業務の繁閑に応じて柔軟に対応できる一方、雇用時にはフルタイム労働者同様に法令を遵守しなければならない。本稿では、パートタイム労働者の定義から契約、賃金、社会保険など、雇用者に求められる対応事項を整理する。

1. パートタイム労働に関する一般規定

1.1. 定義
パートタイム労働者とは、労働法や労働協約、就業規則で定められる所定労働時間(通常1日8時間、週48時間、週単位の場合は1日10時間、週48時間を上限とする)を下回る労働時間で勤務する者を指す。

1.2. 法的取扱いの特徴
原則として、パートタイム労働者にはフルタイム労働者と同等の賃金、平等な権利義務、安全衛生の確保といった待遇が保障される。そのため、パートタイム労働者を雇用する際には、試用期間の設定や労働契約の締結など、通常の雇用手続きなどもフルタイム労働者と同様に適用することが可能である。フルタイム労働者との唯一の相違点は、契約上の労働時間が短時間であること(例:1日4時間、週2日)のみである。

2. 労働契約の種類と締結時の留意点

フルタイム労働者同様、パートタイム労働者との間でも以下の2種類の労働契約の締結が可能。
①有期労働契約:企業と労働者が特定の期間(36ヶ月以内)を定めて締結する労働契約
②無期労働契約:両当事者が契約の有効期間および効力の失効時点を明確に定めない契約

雇用予定の期間に応じて、企業は上記2種類のうちいずれかを選択して締結する。有期労働契約を選択した場合は最大2回まで締結でき、2回目の有期契約が満了した後も引き続き雇用契約を締結する場合は、3回目の締結時に無期労働契約を締結しなければならない。

3. 賃金

パートタイム労働者の賃金は当事者間の合意で自由に定めることが可能。形態としては時間給または日給・週給での支払が一般的であるが、地域最低賃金を下回らないことと、支払期日を遵守する必要がある。主な支払形態と基準は以下の通りまとめる。

No 支払形態 最低賃金の基準 支払期日
1 時間給  

雇用者が所在する地域最低賃金額(*)に準拠して定める。

・地域 I:23,800 VND/時間

・地域 II:21,200 VND/時間

・地域 III:18,600 VND/時間

・地域 IV:16,600 VND/時間

(*) 政令第74/2024/ND-CP 号の第 3 条 1 項に記載(上記は本稿作成時点の基準で、政府により毎年変更される可能性あり)

業務終了後の即時または合意に基づきまとめて支払可(15日以内)
2 日給・週給 上記時間給に換算後、上記の地域別最低時間賃金を下回らないこと 就労日毎または週毎に支払うか、合意に基づきまとめて支払可(15日以内)

4. 強制社会保険および所得税

 4.1. 強制社会保険
以前は、パートタイム労働者(ベトナム国籍)に対する強制保険加入義務について法令上明確に規定されていなかったが、2025年7月1日の保険法改正によって、以下の条件を満たす場合は加入が明確化された。

強制社会保険 加入対象者および加入条件 算定基礎賃金
社会保険 (2025年7月1日より適用) ・無期契約または1ヶ月以上の有期契約を締結していること
・月額賃金が強制社会保険料算定基礎賃金の最低額以上であること
※強制社会保険料算定基礎賃金の最低額は参照基準額に相当し、(2025年8月1日時点では参照基準額が2,340,000 VND/月)
労働契約で定めた時間給/日給/週給×契約で合意した当該月の就労時間(時間数/日数/週数)
上限:参照基準額の20倍まで
健康保険 (2025年7月1日より適用)
失業保険 (2026年1月1日より適用) 詳細は未公表だが、社会保険・健康保険と同様の基準を適用すること想定される

4.2. 個人所得税の申告および源泉徴収義務
フルタイム労働者同様、以下の場合に源泉徴収義務がある。

場合 源泉徴収率
労働契約の期間が3ヶ月以上 税法上の累進課税表に基づく
労働契約の期間が3ヶ月未満かつ1回あたりの総支給額(賃金、報酬、その他支給額)が2,000,000 VND以上 総支給額の10%

留意点として、パートタイム労働者が上記10%の源泉対象所得のみを得ており、かつ扶養控除後の推定課税所得が納税義務基準に達しないと見込まれる場合は、通達第80/2021/TT-BTC号の様式08/CK-TNCNに基づく申告書を雇用者に提出することで、一時的に源泉徴収を免除できる。

5. 使用者の責任および違反時の制裁

パートタイム労働者の雇用に際して雇用者に違反が発覚した場合は、以下のような行政罰が科されるリスクがある。

違反行為 罰則内容*
賃金の支払遅延 10,000,000 ~100,000,000 VND の罰金
最低賃金未満となる支払 40,000,000 ~150,000,000 VND の罰金
社会保険・健康保険・失業保険の遅延納付(未納) ・遅延保険料の納付
・遅延日数×0.03%の延滞金の納付
・罰金等の行政処分
社会保険・健康保険・失業保険の不正免除(加入逃れ) ・未加入分の保険料納付
・未加入日数×0.03%の延滞金の納付
・罰金等の行政処分
・刑事責任の追及

(*)当該罰則は組織(法人)に対して適用

おわりに
本稿では、パートタイム労働者を雇用する際に企業が留意すべき法令と留意点を整理した。企業は導入の検討にあたり、上述の法令内容を十分に把握したうえで、適切かつ効果的な運用体制を構築するとともに、法令順守を徹底して法的リスクを未然に防ぐことが求められる。

参考文献:
・2019年労働法
・2024年社会保険法
・2024年改正健康保険法
・2025年雇用法
・政令第74/2024/ND-CP号
・政令第158/2025/ND-CP号
・通達第111/2013/TT-BTC号
・通達第80/2021/TT-BTC号

 

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